それは素敵だ。』
[#ここで字下げ終わり]
執達吏は書類を保雄の前に出して、
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
『何《いづ》れ御《ご》示談に成りませうが、私の職務ですから成規《せいき》の通《とほり》に執行致しませう。』
『御《ご》苦労様です。差押へて呉れ給へ。何も有りや為《し》無いよ。』
[#ここで字下げ終わり]
執達吏は先《ま》づ床の間の古書類を目録に記入した。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
『古事記伝、大部なものですな。春あけぼの抄、万葉考、えいと、元享釈書。』
[#ここで字下げ終わり]
執達吏の読上げて居る書籍は此春《このはる》郷里の兄から頒《わ》けて呉れた亡父の遺物である。保雄は父の遺骸を鬼に喰はれて居る様な気が為《し》た。額、座蒲団、花瓶《はなかめ》、書棚、火鉢、机と一順二階の品《しな》を押《おさ》へ終ると、執達吏と債権者は下へ降りた。保雄も尾《つ》いて降りたが、美奈子は末の娘の児《こ》を抱いて火鉢の前に目を泣き脹《はら》して座つて居た。[#「。」は底本では脱落]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
『己《おれ》が銭を蓄《た》めて土地を買
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