あ。』
[#ここで字下げ終わり]
と言ひ乍ら山田は渋々《しぶ/″\》二重|廻《まはし》を脱いだ。下にはまがひ[#「まがひ」に傍点]の大島|絣《がすり》の羽織と綿入《わたいれ》とを揃へて着て居る。美奈子は挨拶もせずに下へ下《お》りて行つた。執達吏は折革包《をりかばん》から書類と矢立《やたて》とを出した。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
『君は五年も遣つて来無かつたね。』
『はい、大分長く遠慮して居ましたが、先生は太相《たいさう》御《ご》運が直つたと聞いたから頂戴せずに居ては冥加《みやうが》が悪いと思つて。』
『僕は相変らずだ、運が直る所《どころ》か、益々惨憺たるものだ。』
『いや、然《さ》うで無いて、余程《よつぽど》貯蓄《たま》つたちふぢや有りませんか。』
『何処《どこ》にそんな評判があるのだい。』
『博覧会を当込《あてこみ》に大分土地を買収なさつたつて。』
『とんでも無い事だ。併《しか》し僕には珍らしい縁喜《えんぎ》の善《よ》い噂だ。然《さ》う云ふ身分に成れば結構だが。』
『先生は隠しても日本中で知つてまさあ。[#「。」は底本では脱落]新聞にも出てましたぜ。』
『ふふん、
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