きつれて、家に閉ぢ籠つて社会から独立し、よし社会が彼に対して憤つても其無力を嘲る事が出来たのである」。
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現に東京の或富豪は、近頃は工場を経営すれば争議が起る、借家を建てれば家賃は制限される様なうるさい世の中だから、品川のお台場の様な所に鉄筋コンクリート建の屋敷を建て、真逆の時には金貨と食糧品とを携へて籠城すると、本気になつて計画して居るといふ話を聞いたことがある。
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「今や人の家は彼の城郭でない、あらゆる低能児、あらゆる無茶者が彼の死命を左右する。一寸触れゝばすぐ歯車を外せる様な華奢な仕掛のからくりで、彼の生活が調節されて居るのだ。文明ほどこはれ易いものは外に又とない。如何に高度の文明でも、それが面して居る多種多様の危険に対して、終り迄頑張り続けた例は無い。今日腕白小僧の様な大人は誰でも、社会に対して『俺のほしがつて居る飴ん棒をくれ、くれなけれやお前の生活が辛抱出来ぬ程ひどい目にあはしてやるから』といふ事が出来る、して又其いふ通り暫くは其腕白の為に、我々の人生が耐へ難いものにされるのだ」。
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此事を独逸の
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