摘めりともなし百合の花聖書にのせて祷りてやまむ

くちなはの口や狐のまなざしや地のうへ二尺君は寵《ちやう》の子

よわき子は天《あめ》さす指も毒に病む栄《さか》えを祝へ地なる醜草《しこぐさ》

いもうとの憂髪《うきがみ》かざる百合を見よ風にやつれし露にやつれし (晶子の君に)

垣づたひ萩のしたゆくいささ水にはぢらふ頬をばひたしぬるかな

うけられぬ人の御文《みふみ》をなげぬれば沈まず浮かず藻にからまりぬ

くちぶえに小羊《こひつじ》よびて鞭ふりて牧場《まきば》に成りし歌のふしとる

木屋街は火《ほ》かげ祇園は花のかげ小雨に暮るゝ京やはらかき

世のかぜはうす肌さむしあはれ君み袖のかげをとはにかしませ

利鎌《とがま》もて刈らるともよし君が背の小草のかずにせめてにほはむ

いろふかくゑまひこぼるるこの花よたまひし人によく似たるかな

わが舞へる扇の風に殿《との》の火を百《もゝ》の牡丹のゆらぎぬと見る

いかならむ遠きむくいかにくしみか生れて幸《さち》に折らむ指なき (以下十首人に別れ生きながらへてよめる)

地にひとり泉は涸れて花ちりてすさぶ園生に何まもる吾

虹もまた消えゆくものかわ
前へ 次へ
全33ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山川 登美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング