がためにこの地この空恋は残るに

君は空にさらば磯回《いそわ》の潮とならむ月に干《ひ》て往ぬ道もあるべき

待つにあらず待たぬにあらぬ夕かげに人の御車《みくるま》ただなつかしむ

今の我に世なく神なくほとけなし運命《さだめ》するどき斧ふるひ来よ

燃えて/\かすれて消えて闇に入るその夕栄《ゆふばえ》に似たらずや君

帰り来む御魂と聞かば凍る夜の千夜《ちよ》も御墓の石いだかまし

おもひ出づな恨に死なむ鞭の傷《きず》秘めよと袖の少女《をとめ》に長き

夕庭のいづこに立ちてたづぬべき葡萄つむ手に歌ありし君 (以上)

みてづからひと葉つみませこのすみれ君おもひでのなさけこもれり

花さかばふたりかざしにさして見むこのすみれぐさ色はうつらじ

あたらしくひらきましたる詩の道に君が名|讃《たゝ》へ死なむとぞ思ふ

わが手もて摘みてかざせるひと花も君に問はれて面《おも》染めにけり

いづこ踏みいかに帰らむちる花は山をうづみぬ我をめぐりぬ

誰がためにつくる花環とほほゑみて花の名をさへ問ひたまふかな

手づくりの葡萄の酒を君に強ひ都の歌を乞ひまつるかな

迎へ待つ君は来まさずわが駒に百合の花のせ綱
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