かひかり野にすと思ふに消えぬ
歌ひとつ君なぐさめむちからなし鬢の毛とりて風にことづてむ
母恋ふる心わすれてあこがれぬやさしおん手のひと花ゆゑに
みやこ人《びと》の集《しう》のしをりとつみつれどふさひふさふや楓《かへで》のわか葉
なさけ未《いま》だよわきはげしきさだめ分かず酔へりとのみのこの子と知りぬ
かゝる夜の歌に消ぬべき秋人《あきびと》とおもふに淡《うす》き裳《も》もふさふかな
世にそむき人にそむきて今宵また相見て泣きぬまぼろしの神
われにまた山の鐘鳴るゆふべなり雫《しづく》や多き涙や多き
似つかしと思ひしまでよ菖蒲《あやめ》きり池のみぎはを南せし人
あすこむと告げたる姉を門《かど》の戸にまちて二日《ふつか》の日も暮れにけり
髪ときて秋の清水にひたらまし燃ゆる思の身にしきるかな
うらみわびこの世に痩せし少女子のひくきしらべをあはれませ君
みふみ得しその夕より黒髪のみだれおぼえて涙ぐましき
痩せ指に小鬢《こびん》のぬけ毛からめつつさてこの秋にふさふ歌なき
人の名も仏の御名も忘れはて籠に色よき野花《のばな》つみぬる
しら梅の朝のしづくに墨すりて君にと書かば姉
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