ことのありける時)

おとなしく母の膝よりならひ得し心ながらの歌といらへむ

鋳られてはひとつ形のひと色の埴輪《はにわ》のさまに竈《かまど》出でむか

ひとりにはあまりさびしき秋の夜と筆がさそひしまぼろしよ君

地にあらず歌にただ見るまぼろしの美くしければ恋とこそ呼べ

書よみて智慧売る子とは生れざり蛇《へび》のうすぎぬ価ある世よ

いきづけば花とかをらむ思あり人のいのちの燃ゆる胸より

相ふれては花もうなづく浪も鳴る枯木《からき》青木《あをき》も山を焼きぬる

おもひでを又はなやぎてかざらばや指さす人に歌ひ興ぜむ

歌よみて罪せられきと光ある今の世を見よ後の千とせに

師と友とわれとし読みてうなづかば足るべき集《しう》と智者《ちしや》達に言へ

あなかしこなみだのおくにひそませしいのちはつよき声にいらへぬ

[#改丁]
みをつくし

[#地から1字上げ]増田まさ子

しら梅の衣《きぬ》にかをると見しまでよ君とは云はじ春の夜の夢

恋やさだめ歌やさだめとわづらひぬおぼろごこちの春の夜の人

むつれつつ菫のいひぬ蝶のいひぬ風はねがはじ雨に幸《さち》あらむ

飛ぶ鳥かわがあこがれの或るもの
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