にくまむか

二十とせは亡き母しのぶ夢にのみ光ほのかにさすと覚えし

わりなくも琴にのぼせて恋得つと御歌《みうた》のぬしに告げば如何ならむ

つらき世のなさけいのらぬわれなれど夕となれば思あまりぬ

須磨琴《すまごと》のわかきわが師はめしひなり御胸《みむね》病むとて指の細りし

ねいき細きこのわがのどに征矢《そや》ひきて夢路かへさぬ神もいまさば

川くまのふたもと櫟《いちひ》かげみれば猶も君見ゆわれ遠ざかる

わりなくも君が御歌に秋痩せてよわき胡蝶の羽《は》もうらやみぬ

はかり得ぬ親のこころをかへりみずゆるせと君にものいひてける

わが面《おも》の母に肖《に》るよと人いへばなげし鏡のすてられぬかな

ちる花のしたにかさねてまかせたり君が扇とわが小皷《こつづみ》[#ルビの「こつづみ」は底本では「こづつみ」]と

紅梅の真垣のあるじ胸をいたみ泣くを隣りに小琴とききぬ

みなさけのあまれる歌をかきいだきわが世の夢は語らじな君

君によき水際《みぎは》や春の鳥も啼く細き柳は傘にかかりぬ

その御手にほそきかひなをゆるしませくづるる浪のはてしなくとも

京の春に桃われゆへるしばらくをよき水なが
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