くチャンスを見付けて集まる工夫をしなくちゃね。今日中に連絡をとって、みんなに知らせておきましょうね、あんた、調査や庶務の方を受持って下さる?」
「ええ、いいわ、……一階《みせ》の給仕があんたを呼んでるわよ。ほら……」
「何かしら?」
ひそめた眉をその儘、槇子は椅子を立ち上った。
「ああ貴方前川さんですか、あのね、部長がお呼びですよ。」
男の声に愕いて、いろンな眼が振り返る。
「じやァね。直ぐですよ。」
「ええ……」
失望した顔が一ツ一ツ元の位置へ戻っていった。
「何用かしら?」
テーブルの利札を整理し乍ら、槇子は首を傾けた。
「部長の呼び出しなんて……」
祥子は、債券の額面をグット睨んで、「もしかしたら、感付かれたんじやない?」
「此処《ここ》でやってる運動《しごと》のこと? まさか、そんなことじゃァないわ。だったとしたら、どんな方法で……」
「ともかく……これ……」
祥子の拳が唇へ大きな栓をした。
「フん。」
槇子は強い合点をすると、その儘相手へ背をみせてドアを出て行った。
人気のない廊下を草履がパタパタ反響していく。
――若しこの呼び出しが警戒に価するものなら……
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