いかな。」
 張り子の虎みたいに首を伸ばして、部長はその眼の光りに露骨な色を加えた。
「御好意だけは……」
「どうだね、あんたはどっちがいいの、銀行《うち》にいるならいるでその方法を講じ度いと思うしね、他なら他で丁度婦人記者を探してるところがあるから、何ァに給料のことは心配せんでも、その点は私が保証してさしあげますよ。だがこのことは私の肚《はら》一つの裁断だからその点お含みをな。」
「まァ部長さん、貴方は仲々どうして、老練なドン・ジュアンですわ。私に附いてる真赤なトレードマークがお気に召すなんて、余程の悪食家ですわね。ホホホ……同じプレミアム附でも、私のは爆裂弾かもしれませんわ。それに、生憎、私、貴方の別荘の所在地が気に入りませんしね。お気の毒ですけど、じゃァ左様なら。」
 胸を張って、昂然と、槇子は部屋を出て行った。
      *    *    *
「どうして? ばかに遅かったわね。」
 昼食時刻を、祥子は槇子を待ちあぐんでいた。
「とうとうこれ[#「これ」に傍点]なの。」
 クルクル指で弄《もてあそ》んでいた紙で、槇子は威勢よく首筋を切った。
「原因は?」
 彼女の手から紙を※
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