くチャンスを見付けて集まる工夫をしなくちゃね。今日中に連絡をとって、みんなに知らせておきましょうね、あんた、調査や庶務の方を受持って下さる?」
「ええ、いいわ、……一階《みせ》の給仕があんたを呼んでるわよ。ほら……」
「何かしら?」
 ひそめた眉をその儘、槇子は椅子を立ち上った。
「ああ貴方前川さんですか、あのね、部長がお呼びですよ。」
 男の声に愕いて、いろンな眼が振り返る。
「じやァね。直ぐですよ。」
「ええ……」
 失望した顔が一ツ一ツ元の位置へ戻っていった。
「何用かしら?」
 テーブルの利札を整理し乍ら、槇子は首を傾けた。
「部長の呼び出しなんて……」
 祥子は、債券の額面をグット睨んで、「もしかしたら、感付かれたんじやない?」
「此処《ここ》でやってる運動《しごと》のこと? まさか、そんなことじゃァないわ。だったとしたら、どんな方法で……」
「ともかく……これ……」
 祥子の拳が唇へ大きな栓をした。
「フん。」
 槇子は強い合点をすると、その儘相手へ背をみせてドアを出て行った。
 人気のない廊下を草履がパタパタ反響していく。
 ――若しこの呼び出しが警戒に価するものなら……
 エレヴェタアに乗って、小さい室内灯《ルームライト》を睨み上げている自分の生真面目な顔を細い鏡の中に発見して、槇子は思わず噴き出してしまった。余り神経質すぎる自分を、肚《はら》の中で蹴とばした。
 ――頑張れるだけ頑張る迄さ――
 一階《みせ》は相変らず男達の体臭で充満していた。出納の記帳台に納っていた白板《パイパン》面が、係長の眼を盗んで槇子へ下手くそなウインクを送ってよこした。その歪んだのし餅みたいな顔を、彼女は鼻の先きで突き刺してやった。
 スチームへ尻をあてがって新聞を読んでいた預金部長の禿《はげ》は、眼鏡越しにギロリと彼女を覗き、直ぐに不躾《ぶしつけ》を取り戻すかのように、めめずのような笑皺を泥色した唇の周りへ匍《は》わせた。
 男達は、各々の勤勉さを害ねない程度に、槇子への秋波を怠らなかった。丁度、交尾期の雄犬が、その鋭い嗅覚で雌犬の存在を知るように、行手では、どの男もどの男も顔をあげて彼女を迎えた。
 証券部長は一階の席にいなかった。
 給仕の知らせで、槇子は、正面の羅紗張りのドアを押した。後で、男達の囁きが起った。
「あの、お呼びでいらっしゃいますか?」
 海色の応接
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