人で庭の手入れの方でも手伝って貰うから安気に住みこんで貰いたいとのお言葉。先方様から加様に仰言って頂く御親切は始めてのこととて、良人も手を合せんばかりの嬉しがりよう。早速親子三人お邸へ入りこんだのでございます。娘時代にしこまれたお針が今ここで役立とうとは思いもかけず、わたくしも精を出し、良人が快りきるまでは、と寝かせておいて下さる奥様のお心づかいに二倍の元気を出して働きつづけました。お邸にはちゃんとお医者も抱えてあり、三度三度の食事も勿体ない様にて、おかしい程に親子のものが肥ってまいりました。
 殊に鶴江はめきめきと丈夫になり、病後の事とて食慾が激しく、奥様はみんなにかくして、よく袂へ菓子などしのばせておいでになり、鶴ちゃん鶴ちゃん、と可愛がって下さるのですが下賤の子の礼儀もわきまえず、ありがと、のひと言もいわずに、ひったくるようにしてむしゃつく哀しさ、身のせつなさお察し下され度候。
 お邸に慣れるにつれ、内々の事どもを見ききするようになりましたが、この世の仕合せと羨やんで居りました大家の奥にも暗いかげがあり、奥様には子供さんがなく、お妾に四人もの子があってお袋様は孫の愛にひかされてお
前へ 次へ
全17ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
矢田 津世子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング