たものの、そこに不幸が待っていようとは誰れが想像いたしましょう。
あね様。
良人が奥様の男妾になっているという噂がわたくしを待ちかまえていたのでございます。
男妾……しかも奥様の……ああ、何としたことでございましょう。良人に限って、いや、奥様に限ってそんなことがあるものか、奥様の御器量や御身分をねたみ、言葉をかけられる良人の仕合せをやっかんでの下賤もののはしたなさだろう、とは堅く信じてはいるものの、常日頃の、良人にみせる奥様のおやさしさを思うては不安も募り、堅い心も突き崩れるという他愛なさ。
お邸へ出いりするおのぶさんという髪結いの話では、別荘へやって下すったのも奥様の魂胆とやら……美男子の亭主をもっていると気苦労なこった、とあてつけがましいものの言いよう。ええ、言わんでもいいことを、と気もちがたかぶり、つい、むかむかと良人に食ってかかりますと、ただ申訳ない、ゆるしてくれの言いつづけ、仰山な恰好にてその場へ泣き崩れるのを、芝居は家では沢山だ、と思いもよらぬたんか[#「たんか」に傍点]などきったわれとわが身の浅間しさに良人をかき抱いてすすり上げるという仕末。あね様、この苦しみは何
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