るために父が飯尾さんをあてがったように思われてきて、それが母に対する父らしい劬りかもしれない、という気もちさえ起ってきた。そして、母が亡くなってからは何かしら手持ち無沙汰げに火鉢のところに坐っている飯尾さんをみかけたりすると、一そうそんな気がしてくるのである。
四
母の一周忌がすんで少し経つと姉がおきえさんを迎いに新潟へ旅立った。前まえから姉は内祝については何度も紀久子と打ち合せをしておいたのに立つ前日にはまた電話口へ呼び出して、表向きはどこまでもお父様のお世話をする人としてお迎えするのだから、そのつもりでほんの内輪の支度にしておくように、と念をおすのだった。正式に籍をいれるというのではなく、おきえさんはやはり今まで通りの父の妾としての資格で家へ迎えられるらしかった。それが何か淫らがましい雰囲気をはこんでくるようで厭だったので、いっそ母としてお迎えしたら、と姉に相談をもちかけると、
「そんなこと可笑しいわ。おきえさんはお妾が似合いなのだから、あれでいいのよ」
と笑って、相手にしようともしない。母としてお迎えするなら他に立派な人がいる、と姉の笑いは暗にこう含んでいるよう
前へ
次へ
全40ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
矢田 津世子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング