僧衣の中で、指が算盤《そろばん》をはじいていた。お松達は、一層親切に待遇された。信者達は「小母さん」の存在を聖母の位に迄引き上げた。これは、彼女の夫が貧しい大工であった、という一事が原因していた。併し、心の中でお松は夫を嗤《わら》った。(彼女の知っている範囲では、夫は始終飲んだくれていて、丁半が病みつきで、敗けるときまって彼女を足蹴にするのが癖だった)信者達の親愛は日毎に加わった。そして、お松自身はますます神の御座近く進んだ。世話好きな信者の斡旋で息子はやがてメリヤス工場の見習にやられた。暇を貰って帰ってくる度に、お松は殺した長男を憶って泣いた。あの入水の時、棒杭で強《したた》か脳を打ちつけた娘は、ぼんやり口を開いて、弛んだ視野の中で生きていた、お松は、天なる父の恵みにかけても、此娘の上に奇蹟の現われる事を今か今かと待ちあぐんでいた。
沢木教父が本部の指令で中央都市の或る聖公会へ栄転したのは、お松にとって悲嘆の極だった。が、彼女の悲しみは、新規な神様の移転して来ると同時に消え去った。此神様は四年程御座に就ていられたが、やがて信者の中の美しい人妻と手に手をとって雲がくれしてしまった。若
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