ゃないか。知ってるんだ。知ってるんだ。金を掴ませられれば、神様なんて何でも引き受けるんだ。キリストなんて大嘘だ。役者だ。あの十字架が、十字架が皆の眼をまやかしてるんだ……」
お松は駈け出した。
会堂の中には青い月光が流れていた。
祭壇の中央に十字架が金色の輪廓をみせている。
お松は椅子をかきのけて走った。
幽霊のように、蒼白な牧師の顔が戸口に音なく現れた。
「お前さんはよくも私を騙してきたね。甘ったるい声で人の心へ毒を注射するのがお前さんの仕事なんだ。お前さんの連れていってくれた楽園にア、狐や狸ばかりが往来してるじゃないか。私達ア、そいつに肉を喰われるだけだ。お前さんは詐欺師だ。詐欺師だ!」
祭壇を睨んでいたお松の眼が白く光った。彼女はその上へ駈け登った。十字架をはがした。満身の力を集中して、それを踏みつけた、蹴った、叩きつけた。ガアン。鈍い金属音を発してそれはオルガンをしたたか打った。
「ああああああ」
戸口の蒼い顔が低く唸って倒れた。
「兼、さ、行くんだ兄さんとこへ行こうよ。おっ母アはな、これから一生懸命働いてお前を病院さ入れて真人間にしてやるよ。さ、行こうな。兼坊、
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