って、町の小商人たちも店を張る。下駄屋だの、太物屋だの小間物類の雑貨屋だの……。
市の日は、飲み屋の書き入れ時で、うす汚れの暖簾をぴらぴらさせた屋台がいくつも並ぶ。まだ荷もあけないうちから、濁酒《どぶろく》をひっかけに行っている若い衆もある。酔った揚句の張り高声をあげて、荷も忘れて、あちこち浮かれ歩いたりしている。このような飲み助の相棒は、あぶらやの仙太親爺ときまっている。
仙太は、この町での飲み頭《がしら》であった。酒にかけては抗《かな》うものがいない。この親爺が白面《しらふ》で歩いているのを、町の人たちは見かけたことがないという。
仙太のあぶらやは、もと、この町でも指折りの旧家としてきこえていたけれど、いつの頃からか左前になって、今では、昔からのだだっぴろい店構えを、後取り息子の仙一がひとりで取りしきっている。先代の遺した産を、親父の仙太がけろりと、飲み乾してしまったと町の人たちの噂である。
仙太は、ずっと鰥ぐらしを通しているが、これについて、町の人たちはいろいろに取沙汰していた。在のほうに隠し女がいるという噂も立ったが、これは、嘘らしい。
噂を立てられながらも、仙太は、
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