愚痴っていた。
駅からの往還を町へ三丁手前の七曲りの松の傍まで来た時、仙太は時計を見た。そして根かたに寝転んだ。
馬車は一時三十五分に一台通った。仙太は立ち上ったが、また、寝転んだ。そして、そのまんま、ぐっすり眠った。
はっと気がつき、しまったと思った。背中がぐっしょり濡れていた。時計は併し下りの馬車が来るまで、十分程あった。動悸のはずみを、じっと抑えた。
馬車が姿を現わすと、仙太は往来へとび出した。彼《あれ》を慥かに視た。
「爺っちゃ、止ってけれ!」
馬車屋は、中の客へ早口に何か言って、馬に鞭をあてた。馬車は傾き、水煙りをたてて仙太の前を激しく揺れ進んだ。
「待て!」
と、仙太は叫んだ。
「話あるから、待て!」
仙太は馬車を追った。犬は吠え立てながら先を走った。
「なして、待たねえんだ!」
ようよう馬の手綱を掴えて、息を途切らし、いきなり馬車にとび乗りさま、お高に襲いかかった。
「仙太さん!」
お高は抵抗した。仙太はお高を馬車の外へ曳きずり落した。犬は二人のまわりをぐるぐる廻りながら吠え立てた。
「話きいて、さ」
お高は道に膝をついて、落ちつかせようと男の着物を合
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