ばかりで一生懸命だった。両手に荷物を持って見送ってくれた西尾も、上衣の肩がずり落ちネクタイのよじれた可笑しな恰好になっていた。身動きの出来ない中で、ふと自分の肩つきの右上りな、癇で突っ張っているような姿に気づいて妙な心地がした。良人にそっくりだった。
姑と老爺の間には蕎麦の話がはずんでいた。小諸が近かった。降りて名物の蕎麦を食べて行かないかなどと老爺は誘った。そして網棚の風呂敷包を下ろし、褪めた二重トンビを着て、駅に着かないうちから別れを告げて立って行った。
蕎麦は二番粉の生蕎麦に限る、滝野川の籔忠か池ノ端の蓮玉庵だと言っていた良人のことが思い出された。
小諸の駅に入った時、隣席の学生は城趾や藤村の碑のある方向を指さして、親切に説明してくれるのだった。
羽音がし、窓へすれすれに、鳩が飛んで行った。眼で追うと線路の砂利の上をあちこちして、忙しげにまた飛び立った。鳩は荷箱の上や荷物置場のコンクリートのところを探しものでもするせっかちさで歩きまわっていた。人夫の肩にチョイと止まって屋根のほうへ飛ぶのもあった。屋根にもたくさんの鳩だった。喉の奥で念仏を唱えているような鳴声で、年功のたっ
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