て姑と二人で味わった。良人のお骨へはふだん用いつけていた茶碗に少しばかりよそって供えた。この茶粥は良人が好物だった。大分以前から食通として役所の人たちや雑誌の上などで名が知られていたほうなので、ついその賞め言葉に乗って一途な清子は無暗とお粥をこしらえる。それが毎朝つづくという風でしまいには姑も良人も笑い出してしまうのだった。
 清子の茶粥は善福寺の老和尚からの直伝である。極上等の緑茶で仕立てる。はじめっから茶汁でコトコト煮るよりは、土鍋の粥が煮あがるちょっと前に小袋の茶を入れたほうが匂いも味もずんと上である。この茶袋の入れかげんがまことに難かしい。お粥の煮える音でそのかげんをはかるので姑はお粥炊きの名人だと感心する。それでなおのこと打込んで、いろんなお粥を工夫しては喜ばれる。紫蘇粥、青豆粥、海苔粥、梅干粥……この梅干のお粥のことは良人が「味覚春秋」の新年号にも書いたほどである。グツグツ煮えはじめた頃合いを見はからって土鍋の真ん中へ梅干を落して、あとはとろ[#「とろ」に傍点]火で気長に煮あげる。粥は梅干の酸味を吸い出し梅干は程よい味にふっくらと肉づいて、なんともいいようなく旨い。サラッと
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