れ易いから、と云うて麻雀も下火にならぬうちによい値で店を譲り、今の小間物店を出してくれたのだった。おっ母さんにはこれが不服でならないけれど、面と向って文句を云う訳にもいかない。しょうことなしに蔭で、お初へ爺さんの悪口をきかせるのがせめてもの腹いせであった。
金魚の鉢を眺めているお初の眼にはしらずしらずに涙のわいてくることがある。狭い鉢の中を窮屈そうに泳いでいる金魚が何やら自分のように思えてくるのだ。秋風が立ち初める頃尾鰭の長い方が死んでから残った一匹もめっきり元気がなくなって、この節では硝子に円い口をつけたままじっとしていることが多い。
広い世間を肩身狭く、窮屈に渡らなければならない自分が、お初はみじめでならない。馬淵の内儀さんが亡くなって、そのあとへ自分がなおったとしても世間の人たちは妾の成り上りとしか思わないだろう。爺さんの内儀さんになってもそんな思いをする位なのだから、まして今の暮しが肩身の狭いのも無理がない。お初はどっちへ向いても窮屈な自分を考える。どうせ、この世を狭く窮屈に渡らなければならないのなら、呑気な今の妾ぐらしの方が気が安い、と思ったりした。
今日は魚辰へたのん
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