さんは貸し金の取り立てで相模屋へ足をはこぶうちお初をみかけて、そのぼってりとした、どことなく愛嬌のある顔つきが可愛くなってきた。そこで何かのはずみに主人へこのことを話してみると大そう乗気になって、「ひとつ、面倒をみてやって下さらんか」という。主人の肚では、このお初の取りひきの成功が馬淵との貸借関係の上に何分の御利益をもたらすもの、と北叟笑んでいる。この肚を疾っくに見すかした馬淵の方では「義理人情で算盤玉ははじかれぬ」とはな[#「はな」に傍点]から決めてかかっているので顔でにやにやしていても利子の胸算用は忘れないでいる。
主人からこの話を大むらのおっ母さんへ橋渡しをすると、願ったり叶ったりの仕合せだというので、おっ母さんが何遍か相模屋へ出かけてきては馬淵と会見する。そのうち、神楽坂裏へその頃流行りの麻雀屋を持たせてもらって、大むらをやめたおっ母さんがお初と暮すようになった。
おっ母さんのかねがねの念願はお初に金持ちの旦那をとらせて小料理屋か待合でも出してもらって、ひとつ人を使う身分になって安気に暮してみたい、というのだったが、馬淵は一向にこちらの気もちを汲まず、水商売はとかく金が流さ
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