で働いていた頃は猪之さんと呼ばれて、しっかり者の主人にみっちりと仕こまれた。渡仙は高利と抵当流れで儲けて、一代で身上をあげた男であった。その儲けっぷりを世間では悪辣だなどと評するのだが、誰ひとり彼の仕事に勝つものが出てこない。どんな悪評があろうとも彼は結局羽後で随一の高利貸し渡仙であった。
「どうも、世間の者あこの俺を高利で食っとる云うて白眼視するがな、三井三菱とこの俺と較べてどれだけやり口が違うというのだ。奴らは背広を着とるが、この俺あ前垂れをかけとる、というだけの違いじゃあないか」
 渡仙は店の者のいる前でよくこう云うて嗤った。また、「義理、人情で算盤玉ははじかれない」と云うて貸し金の取り立ては一歩も譲ろうとはしない。世にいう渡仙は梟雄のたぐいであった。その度胸のよさと商売上のこつ[#「こつ」に傍点]と節約ぶりを猪之さんはそっくりそのまま頂戴している。尤も、その節約に実がいりすぎて爺さんのはちと嗇《しわ》くなっている。

     三

 渡仙の手代をしていた頃から猪之さんは近所のものへ小金を貸しつけ、そのうち持ち金が利子で肥ってくると少しばかり商売気を出して玄関脇へ「小口金融取扱
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