すもの。遊ばせておいたのでは、つまりませんからねえ」と、こんなことを云うている。
 根がしまつ屋の爺さんには内儀さんのここんところが大いに気にいっている。お初などには真似の出来るこっちゃない。何んというても、うちの内儀さんだわい。――こう満足した爺さんの心が今も団扇持つ手へ働いて、つい内儀さんを煽いでやることになったのである。
 枕元に置いてある猪を型どった蚊遣の土器《かわらけ》から青い烟りの断え断えになっているのをみて内儀さんが種を呼んだ。
「いやあ、もう、遅いからやすむとしよう」
 爺さんはこう云って蚊遣の土器をひき寄せて渦のまま灰になっている分を払い落して、残った小さいのに蛍のような火の付いているのを「あっちちち」と云いながら指の腹で揉み消している。無駄事の嫌いな爺さんは、こうしておけば気がせいせいするのだ。
「それでは、おやすみといたしましょう」
 と、内儀さんはそこへきた種の手をかりて手水へ立った。廊下を軽く咳こみながらゆるゆると歩んでいくうしろ姿がどこやら影が薄い。爺さんはそれを見送りながら「内儀さんも永いことはないなあ」と不憫になってきた。一生一度の思い出に、紋付の羽織を
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