いつもこれに感心していた。そして丸尾さんを倣う心がいつの間にか爺さんの内には根になっていて、その頃から頭に残っている二つ三つを何かというて使ってみたいのである。
爺さんは内儀さんに問うた。
「何を縫うているのだい?」
「小村さんから届いていた袷が余りおくれていますのでねえ」
「なあに、袷には当分間があるんだし、そんなにつめて[#「つめて」に傍点]しちゃあ躯にさわらあな」
団扇の風を爺さんは優しく内儀さんの方へ送った。小村さんというのはすぐ裏手の、馬淵の持家に入っている後家さんで、これがお針の師匠をするかたわら御近所の賃仕事をひきうけている。そのうちの二三枚を馬淵の内儀さんが分けてもらって小遣い銭の足し前にしていた。若い頃、賃仕事に追われがちだった内儀さんの指さきが今もその仕来りからお針が離せないのである。「何もよそのお仕事までなさらずともよい御身分ですのに」と、時たま裏の後家さんが探ぐるように云うたりすれば、内儀さんは愛想笑いをみせながら、「ほんの退屈しのぎでございますよ」と云うのがおきまりになっている。しかし、心の中では、「こんな手だって、あなた、動かしていさえすればお宝になりま
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