ていた。やがて、徐かに顔をあげて良人を視た。
「どんなにお叱りをうけましても、こんどのことだけは通させて頂きます」
云って、徐かに座を立った。
良人の非行を自分の落ち度に考える夫人は、おしもを穢してしまったことの申し訳なさから、自分に許される精いっぱいの償いをしたいのだった。この夫人の気心を解さぬ唐沢氏は、ただ、いちがいにこの騒ぎをくだらぬものに思うのである。夫人や園子が自分事のようにおしもを世話しているのも不快なことだったし、何にもまして、無駄な費《つい》えが気にいらないのだった。
故郷《くに》から両親や親類のものが出てきて、祝儀の当日になった。奥の座敷に金屏風を立てて仮の式場にあてた。高島田に園子の嫁入衣裳を借り着したおしもは嬉しさからすっかり上気《のぼせ》てしまって、廊下のあたりや勝手元をうろうろ歩きまわったりした。盃事の初まる前に、両親に伴われたおしもが更めて主人夫婦のもとへ挨拶に出た。
「いろいろと御世話様になりまして」
両親の辞儀をするのをみて、おしもも手をついて、しとやかに頭を垂れた。
「わたし共こそお世話になりました」
云うて老夫人はそっと眼を抑えた。顔をあげ
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