てからは心も急くから、と園子も手伝って、毎日のようにおしもをつれてはデパートヘ出かける。あまり粗末なことでは、故郷から出てくる両親の恥になるだろう、と心をつかって、箪笥に鏡台、寝具一切をとり揃えてやる。そんな忙しい或る午後のこと、出入りの呉服屋が染めあげてきた小菊模様の錦紗の羽織を、老夫人がおしもの肩へかけさせて見とれているところへ唐沢氏が入ってきた。
「何んだ、それおしもの着類か」
立ったなり眺めている。
「少し、地味でしょうかしら?」
老夫人が窺うように見あげると、唐沢氏は眼をそらして、
「贅沢なものを……」
と不機嫌に呟いて、部屋を出て行った。
呉服屋が帰ると、老夫人は唐沢氏の居間へ呼ばれた。
「女中風情に、錦紗は過ぎている。身分を考えなさい」
唐沢氏はきめつけるような口調で云った。
「錦紗といっても、あれが一枚っきりですし、嫁にいくのに余り……」
「いいや、儂は、この間からのお祭さわぎが気にいらんのだ。それに、金も、かけ過ぎて居る」
云うて、唐沢氏は庭の方へ眼をやった。とりすがるすべのないよそよそしい容子である。老夫人は手をついて聞いていた姿勢をそのまま、じっと考え
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