にもまして優しく、こまやかな情愛をみせるような時には、蔭に必らず女出入りがある、――それが、これまでの例であった。そんな折り、故意にみせる優しさというのも、心底から夫人への償いに動かされているというよりは、放蕩で穢れた自分を浄めるための、それが罪滅しのようであった。唐沢氏の関心をもつ婦人というのは主に玄人筋で、それも、ひところは柳橋の小若というのへ入れあげて、おさらい時には踊り衣装の一式を自分で見立て、京都へ誂えてやるという執心ぶりだった。それが、還暦の祝いをすませた頃からだんだんにあそびが納まって、骨董の蒐集へと心が傾いていった。何処で掘り出したのか、金泥の剥げた大時代ものの仏像を床の間にすえて、いかにも娯しそうに撫でてみたり、叩いてみたり、仰反って堪能するまで眺めている容子には、これまでの惰性からあそびの仕草がくりかえされている、ただ、老齢が世間を憚かってその対象をとり代えたにすぎない、とも見うけられた。
 万年青いじりがすむと唐沢氏は茶の間に寛いで、老夫人の点てた末茶を一服喫んでから、洋服に着換えていつものように九時十分前に玄関へ降りた。女中のおしもに靴の紐を結ばせながら、式台に
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