沢氏の右隣りがおしも、それから夫人に慶太郎という順である。おしもはいつものニコニコした顔で牌を取り、忘れたり順序を間違えたりする。そのたびに、唐沢氏は大笑いして、代って牌を取ってやったり眼くばせで順を教えたりする。それを見ている慶太郎は、物好きな眼つきでちょいちょいと老夫人の方を見やる。母にそれを知らせてやりたい悪戯っぽい心からである。老夫人には、その息子の眼ざしが気になった。あのことあって以来、慶太郎のおしもを見る眼ざしが変ってきていると気付く。これまで女中としてしか見ていなかったその眼が、急に、女としてのおしもを興味深く眺めてきたとも思われる。この頃、用もないのに慶太郎が女中部屋をのぞきこんで、おしもを揶揄っているのを見かけることがある。おしもの方でも、そんなことが嬉しいらしく、きゃっきゃっと声を立てて笑いこけている。そんな時には、唐沢氏を警戒する心が同時に慶太郎へも向けられて、眼ばなしのならぬ思いをする。今では慶太郎を唯ひとつの希望にして生き甲斐を感じてきた老夫人は、それだけに、慶太郎の裡に良人を見た時には動揺した。若しかしたら、慶太郎は自分と結ばれているよりは、より根深く良人と
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