結ばれていはしないか。そんな気がしきりにする。そして、この父子をおしもにまかせては寸時も家を開けられぬ、と用心する。良人や息子を女中にまかせて安気に外出の出来る主婦は世に何人いるだろうか、とそのことにも夫人の思いは及ぶのだった。
唐沢氏の座席からは少し頸をのばせばおしもの並べた牌がひと目で眺められる。おしもに必要な牌を唐沢氏が心して投げてやっている。老夫人は、そのことに先刻から気がついていた。その唐沢氏のおかげで、おしもは二度も上っている。
慶太郎はそのたびに眼を円くして、
「今夜はおしもの当りだね。奢れ奢れ」
と巫山戯かかった。
「あらいやでございますよ。お坊ちゃまは」
おしもは大仰さに手を振って、きゃっきゃっと笑いこけた。
「ほら、また、お坊ちゃまが出た」
慶太郎が威かすつもりの大声をあげると、腹をかかえて笑っていた唐沢氏が慶太郎を突っついて、
「お坊ちゃまの番だよ」
と教えた。
普段は、「慶太郎様」と呼びなれているのに、こうしたくだけた座ではきっとこの「お坊ちゃま」が出る。まるで、おどけ[#「おどけ」に傍点]にわざと出すようなものである。夫人にはそれが不愉快だったけ
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