の肉体を蘇らせていくようなものである。こんなことが続いて、老夫人は少しずつ活気をとりもどしてきた。勝手口へ下りて、自分から御用聞きへ註文を云うたり、家の内を見廻って掃除の不行届な点を注意する。これまでの仕来りから夫人の身のまわりのことはおしもが勤めることになっているので日に何度となく顔を合せる。こんな子供っぽい顔をしているくせに、よくも悪さが出来るものだ、と憎らしく思う。恩を仇で返すような女だと思う。そう思うたびに、老夫人は気力の弾みを感じる。これが、妙に愉しいので、おしもを見てはひとりでに昂奮するようになる。妬情をかきたててみる。そして、愛情で繋っていた以前よりも、今は、憎悪と妬情からおしもの存在と離れがたいものになってくる。
或る夜のこと、老夫婦が炬燵に温りながらラジオの長唄を聴いているところへ慶太郎が降りてきて、
「今夜はお揃いだから、久しぶりで麻雀でもしましょうか」
と誘いかけた。
唐沢氏も乗気になって、早速おしもを呼んで仕度をさせた。炬燵を離れては夫人がつらかろう、と劬わって、麻雀卓を櫓の上へのせるようにと指し図をするのである。やがて、仕度が整うと、座席が定められた。唐
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