混って荷造りをしたり番頭の帖づけを手伝ったりして、いっ時も休むことなく働きつめるという風だった。この父に、たったひとつ、妾宅なしではすまされぬという困った癖があって、それも二、三軒を見廻り歩くのが慣しになっていて、本宅では殆ど寝泊りをするということがない。母や姉たちと母屋に住み慣れている伊予子は滅多に酒倉や店をのぞくということがないので、常の日は父を見かけることがなかった。正月とか何かの儀式のあるような時にだけ、父は家に戻っている。いまだに町人髷を頭から離さぬ父は、結いあげたばかりの鬢の張った艶々しい髪がいかにも美くしくて、紋服に袴をつけた恰幅のよい姿は大家の旦那然とした貫録を示していた。そんな盛装の父しか記憶にのこっていない稚い伊予子は、父というものはいつも紋服に袴をつけているものと決めていた。だから、ごくたまに、平服の父を母屋で見かけたりする時は、それを直ぐには父だと信じかねた。何かよその人を見るような感じで、それでいて、妙な懐しさから父が厠へ立つのにも一緒にくっついて行った。夜分は、母に抱かれてやすむのが習慣になっている伊予子は、よく母のしのび泣きに醒されて、自分もまた声をあげて
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