や、始終ニコニコと笑っているこのあどけない顔が良人を誘惑するて[#「て」に傍点]だったのか、と夫人は今十九のおしもに四十年増の手練手管を見た気がする。
 この日、慶太郎が学校へ出かけて間もなく、痛む脚を日向で揉んでいた老夫人のもとへ、竹早町の横尾から電話がかかってきた。姉娘の園子の嫁いだ先きである。お春に代って聴かせると、園子の声でこれから伺ってもよいか、という。先刻から園子を招び寄せたい衝動で騒ぎたっていた夫人の心は、この言葉をきいて急に潤されたような落付きをとりもどした。そして、もう愬《うった》えている自分の姿が眼前にちらつき、涙がこみあげてくる。お春を呼んで、普段は使っていない離れの茶室へ火を入れさせた。今日は女中たちを遠ざけて、園子と相談をしなければならない更った心構えである。茶菓の類も、園子がみえない前から運ばせておいた。やがて、内玄関に気配がすると、老夫人はいつものように出迎いには出ず、先きに離れへ入って待った。
 今年六つになる末の女の子をつれて園子が入ってきた。
「お母さま、お茶を点てて下さるの?」
 めずらしそうな顔で炉端へ坐って、
「今日はね、この子のお誕生日なので
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