、五もくを拵えましたの。お母さまお好きのようでしたから……」
 云いながら膝の上に置いた重箱の蓋を取ってみせた。
「それはまあ、御馳走さまだこと。このお祖母ちゃまはうっかりお祝いを忘れていましたねえ。ごめんなさいよ」
 老夫人は孫の頭を撫でて詫びた。そこへ、おしもがニコニコした顔で入ってきて、
「お待たせいたしました」
 と云って、盆へのせた小皿を差し出した。
「云いつけもしないのに何んで持ってくるのです」
 突然、老夫人は険しい声音で叱りつけた。叱られることには慣れているおしもも、今日の主人のものいいにはいつもと異った用捨のならぬ厳しさを感じて怖気立つのだが、手をついて畏まっているその顔が癖のニコニコと笑っているのには気が付かない。この笑顔が老夫人の癇にさわった。舐められているような侮蔑感から身内が熱してきた。
「お下り!」
 徐かに云ったつもりであったが、ひきつけたように声が震えていた。
 園子は、思いがけぬ激しい気色の母を見て、呆気にとられていた。おしもが下ると、
「お母さま!」
 と小さく呼んで窺うように、
「お小皿を持ってくるように、っておしもへはわたくしが云いつけましたの」
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