につれて出かけるのが慣しになり、常着類の柄模様を自分から見立ててやって、おしもの肩に掛けさせ、眼を細めて眺めている容子はいかにも満足気である。このような内証事は、夫人にとっては一種の道楽のようなものであった。
 そのうち、おしもは、女中というよりは娘分に近い扱いをうけるようになって、麻雀卓子の出るたびに仲間へ加えられる。老年に入ってからの唐沢氏は、暇潰しにこんな遊びを始めるようになって、老夫人に慶太郎も、その都度お相手を云いつかる。そんな座が重なるにつれて、老夫人は一そうおしもを身近いものに思うて、足の不自由なのを口実に、良人の世話をまかせるようになる。夜分早くに寝室へ入った唐沢氏がおしもに頭を揉ませているのにも格別疑いをはさまなかったし、まして、古書を探しに唐沢氏がおしもをつれて蔵へ入るのは、夫人にとっては普通事であった。良人に信頼をおく――そんな気もちよりも、てんからおしもを子供扱いにしているので、疑いの心が起ってこないのだった。それだけに、夫人は今度のことを自分の落ち度に思うのである。子供だと気をゆるして安気に構えていた自分へ肚が立つ。そして、舌をちょろつかせてものを言う甘えよう
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