昔話《ムカシコ》をきくのが、このうえない安楽だった。
台所つづきの三畳間がぎんにあてがわれた寝場所だったが、まるきり陽の目をみないこの小部屋はしょっちゅう黴臭く、壁や畳がジトジトと湿っていた。北向きのたった一つの格子窓からは路地のすぐ向うに紺屋の勝手口が見えた。子沢山のおかみさんが立ち働きづめでキンキン声を張り上げて、ひっきりなしに子供や婆様を叱りつけていた。ぎんが寝るころになって洗濯をはじめることもあった。窓の両側の壁には子供のかいたクレヨンの図画だの、雑誌から切り取った西洋美人の絵だの、新聞の附録の古い一枚カレンダーだの、工場にいたころの友だちと撮した写真などがピンで留めてあった。写真の中の友だちもぎんも眉毛のかくれるほどの大きな束髪に結って、どういうつもりか揃って右手を袂の中に隠していた。
部屋の隅には古行李やボール箱が積み重ねてあった。ひびの入った電燈の花笠や、摘み細工のぼろぼろになった柱懸や、インキ瓶のようなものまで、丁寧に納まってあった。主人から、もう捨ててもいいよと許しの出た物は、なんでもみんな頂戴しておいたのである。
古行李には、ぎんが持物の中でも一番自慢にしてい
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