すぎると、主人夫婦を悪く云うものもあった。
ぎんはニコニコして働いていた。頬骨の出た釣り眼の長顔なので、黙っているとひどくこわい険のある顔にみえる。これを苦にやんで、始終ニコニコとほぐしていた。娘のころチブスにかかって髪が生えかわってからチリチリの縮れっ毛になってしまった。それをひっつめて、うしろにお団子にしている。右肩が怒っていて、ちっと片輪にみえたが、これはレース工場にいたとき機械の片側調べを長年していたからで、今ではその肩をわざと落して癖づけようとしてもなおらなかった。奥様のお下りの盲縞でこしらえた上っ張りを年中着ていた。朝晩はその上から襷をかけ、大きな前掛で腰をひっくくった。誰もまだぎんの齢を云いあてたものがいない。しかし、誰れの見当も五十から六十の間ということで一致した。不思議なほど手足だけが綺麗だった。
通いの娘たちが帰ったあと、ぎんはひとりでミシンの夜業に精を出した。つい十二時すぎまでかかりつめていて、近所から安眠妨害だと文句を云われることもあった。たまに早仕舞いをしたときは銭湯へ行ってゆっくり手足を伸ばしてくるか、隣家の紺屋へ遊びに行って同じ郷《くに》生れの婆様から
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