様は信心深くて念珠を手から離したことがない。慈悲の心に篤く、申し分なく優しい人柄だったけれど、出入りの者たちは「けちんぼう」だと蔭口をきいていた。情をかけるにも口だけで、一向に喜捨をしたためしがない。奥様自身は、まことさえあれば仏様の御心に通じるものだからと云い慣わして、人へ恵むということをあまり喜ばない。お貰い物が殊のほか好きで、それへ熨斗紙を掛けかえたりしては他家への遣い物にしたり、あれこれとひとりで忙しがっている。ぎんには主人の云うことなすことが、みんな尤もだった。そして、この吝嗇な奥様と根っから始末屋の女中はよく気が合って、いよいよ物おしみするのだった。
 ぎんの一日は目まぐるしかった。内のことも外のことも一人で取り仕切らなければならない。年寄り夫婦の用事はひっきりなしだったし、店の娘たちの世話もやけた。それに品物の受け渡しや厄介な帳づけの仕事がある。ミシンの請負からあがる利益で主人夫婦はたっぷりと暮し、貯金も出来るというのでほくほくだった。
 近所では働き者のぎんのことが評判である。あたりやさんではいい女中を当てたものだと、羨ましがった。あんなに扱き使って八円の給金じゃあ因業
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