きこえた唐物屋だったけれど、ここ数年来輸入物の仕入れがむずかしくなったところから、とかく商いも不如意がちになり、それかといって今さら軍手や割烹着類を店ざらしにするような小商人になり下がるくらいならと依怙地な老主人は店を閉ざしてしまったが、今ではその店内にぎっしりとミシンをならべて、ぎんが頭になって請負のミシン作業に精を出している。ほんの手内職のつもりではじめたことが、いつのまにか本職になってしまった。この家の一人娘の遺品だという古ミシンをつかって、片手間に近所の人たちの簡単服だのエプロンだのの賃仕事をしているうちに、出入りのクリーニング屋から話がついて、衛生服や医務服の下請をするようになった。ぎん一人では手もまわりかねるので、中古を買いこんだり賃借りをしたり、いまは通いの娘たちも汗みずくの忙しさである。
 年寄りの主人夫婦から一切をまかされているぎんは、ミシンにばかりかかりつめているわけにはいかない。年寄りが喜びそうな惣菜をこしらえたり、お針をしたり、洗濯をしたり、鼠捕りをしかけたり、市場へ買い出しに行ったり……。市場で、ぎんは「負けれせ」という呼び名で通っていた。ひね生姜一つ買うにも
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