をすると、女はこれは私の精をこめて織ったものだから三百両であったら売ってもよいという。町の大店の旦那様の処へ行くと、大そう喜んで家の宝にするとて言い値で買い取ってくれたので、男は驚いて大金を持って帰って来た。そして、この織物のおかげで、ひどく裕福に暮せるようになった。或る夜、その女が云うには、娘ももう食べ物をやっておけば大丈夫だから私に暇をくれろという。男は驚いて何して今頃そんなことを云うのかと尋ねると、これまで私もずいぶん稼いだけれど今では精も根もつきはてたから元の性に還りたい。実は私はいつぞやお前に助けられた鴻の鳥である。なぞにかして御恩返しをしたいと思って私の代りに一人娘を残して行く。そして、あの機を織る時、私の体の毛はみんな抜いて織ったので今ではこのようになったというて、赤裸になった体をみせ、わずかに残っている風切羽で山のほうへばさばさと飛んで行った。
 今年四十二歳のぎんは、この昔話をきいた晩、泣けて仕様がなかった。枕につっ伏して声をしのんで、ながいこと泣いていた。
 ぎんがこの「あたりや」に女中奉公してから、もう、十年あまりになる。「あたりや」もこの六本木通りでは相当に名の
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