遊びにくるたびに、ぎんは肩身の狭い思いをする。はじめっからあんたの貯金が目あてだったんだからと、その友だちは親身になって忠告した。今のうちに別れないと飛んだことになるとも嚇かした。しかし、ぎんは別れる気がなかった。男は仕入をすると云っては、あらかた金を持ち出した。家をあけることが多くなった。たまにくつろげば酔って「おい、シャグマ」と喚き立て出て行けがしの愛想づかしだった。
どのような男の仕打も、ぎんには我慢が出来た。子供のために堪えられたのである。子供はぎんになついて、可愛かった。まわらぬ口で母チャン母チャンと呼びなれていた。ねむくなると、涎れの顔をぎんの胸にこすりつけてきた。そしてから[#「から」に傍点]乳を吸って機嫌よく寝入った。ぎんはこの子が可愛くってたまらなかった。朝から晩まで、子供のことでいっぱいだった。人に会いさえすれば子供自慢だった。
「うちの子は、まあ、なんて早智慧なんでしょう。けさもね、鳩ポッポを教えたらもうすっかりおぼえこんじまって、さあ、俊ちゃん、小母さんにポッポッポを唱って上げれせ。」
子供が涎れの口をとがらせて覚束なげに唱い出すと、ぎんはもう眼をなくして武
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