く。眼玉を皿にして注意する。しょっちゅう片側歩きなので、しぜん肩が凝ってしまう。六台に一人あたり、班長が休みなしに見廻っているのでくさめ[#「くさめ」に傍点]をするまもない。ぎんものちには班長になり、女では一人っきりの監督にまで上ったけれど、機械に附き添う愉しさは格別であった。
工場にはたった一台、米国から取り寄せたという特製の機械があったけれど、これはぎんでなければ動かせなかった。他の者では機械がいうことをきかないのである。無理をして針に刺されるのが怖さに、誰れも手を出さなかった。これは織目の緻密な総レースをつくり出すのである。仕上り品は主に極上品のカーテン地として売り出された。ぎんは、この機械のことで明け暮れた。どんな小さな埃りでも指のはらで丁寧に払った。針の一本一本を唇でためした。そして、機械にかける前、糸を舐めるのに精をきらした。舐めると糸が切れないという「まじない」を故郷《くに》の年寄衆にきいていたからである。針の間からゆるやかに大巾の模様レースが流れ出してくる。白いこの流れに機械の騒音が吸いこまれて、ひとり静けさがここにばかり凝っているようである。視戌っているとしんしんと
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