産の牀にある従兄の嫁の世話から嬰児の襁褓の洗濯、幼い子たちの面倒をみながらの食事ごしらえ、小僧に手伝って酒瓶を洗ったり、味噌を量《は》かったり、それでも手のすいているときは、炭の粉でせっせと炭団を丸めたりした。
 従兄には生まれたばかりの子をいれて、七つを頭に四人の子供があったが、上の二人は、寿女を呼ぶのに、「らくだ、らくだ」と囃したてて、よく、ふざけて、その背に飛びついたり、瘤を叩いたりしてキャッキャッと騒いだ。漸う、よちよち歩きはじめたばかりの三番目の子までが、まわらぬ口で、「ヤクダ、ヤクダ」と呼びたてて、寿女の背に乗りたがる。泣き出されると、寿女は困って、よく、この子の駱駝になって、狭い部屋の中をせいせい言って匍い歩いた。
 母親がまた牀に臥すようになって、寿女は家へ呼び戻された。加福の師匠のはからいで近くの医者にかかったが、浮腫はなかなか引かなかった。
 尾久の家から嫂が見舞いに来た。かえりしな、物欲しそうにして店の中を見まわしているので、寿女は、嫂が不自由しているという笊だの簓《ささら》だのを風呂敷いっぱいに包んで持たせてやった。親戚の人たちが来ても矢張りこうであった。店の品
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