B本月○○日(この所に殺人事件のありし翌日の日附あり)朝ボア・ド・ブウロニユに於て捕獲す。この動物はマルタ航海会社の汽船の乗組水夫が飼養しゐたるものなることを聞けり。同人は左の家宅に来り、動物の状態を説明し、捕獲並に飼養の入費を支辨するときは、動物を受け取ることを得べし。フオオブウル・サン・ジエルマン町○番地第三層屋。」
 己はドユパンに問うた。「マルタ航海会社と云ふのはどうして分かつたのだね。」
「それは僕も実際知らないのだ。少くもたしかには知らないのだ。併しこの紐の切を見てくれ給へ。これは布《きれ》の様子と油染みた所とから見ると、水夫が辮髪《べんぱつ》を縛る紐らしい。それにこの結玉を見給へ。これは水夫でなくては出来ない結方だ。それにこの結方をするのは、まづマルタ航海会社の水夫らしい。僕はあの避雷針の針金を支へた棒の下でこれを拾つて、そしてどうしても殺された女達の物でないと思つたのだ。この紐が水夫になつてゐるフランス人の物で、その水夫がマルタ航海会社に使はれてゐるかどうだか、それはたしかには分からないが、兎に角僕はさう判断して広告をして見たのだ。間違つたつて、この広告は誰にも迷惑を掛
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