ト解決を試みようと思ふのだ。僕はかう思ふ。あの殺人犯の現場を見てゐたフランス人がある。併しその男はあの血腥い事件の一々の部分に対する責任を持つてはゐないかも知れない。多分責任を持つてはゐないだらうと云つても好からう。そこでこんな想像が出来る。その男は猩々を飼つてゐたところが、それが逃げた。そこで追つ掛けてあの家まで来たが、あんな残酷なことをしてしまふまで、そいつを掴まへることが出来なかつた。その間|獣《けだもの》は自由行動を取つてゐたと云ふのだね。これは只の想像で、僕にだつてきつとさうだとは思はれないから、人に同じ想像を強ひることは出来ない。併し僕は兎に角ゆうべあの家を見た帰途にル・モンド新聞社に寄つて広告を出させて置いた。あの新聞は海員の機関で、読者には水夫が多いのだよ。そこでさう云ふフランス人がゐるとして、そいつが直接に血腥い事に関係してゐたら、名告《なの》つて出はすまいが、さうでないと名告つて出るだらうと思ふのだ。」
かう云つてドユパンは己にけふのル・モンド新聞の広告欄を見せた。かう云ふ広告がしてある。
「猩々一頭、右は大いなる黄褐色のものにして、ボルネオ島に産したるものゝ如し
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