煬ゥられよう。さう云ふ場合には殺人犯の動機を金に求めても好からう。併し今の場合で金を動機だとするには、その下手人を非常なぐづだとしなくてはならない。馬鹿だとしなくてはならない。さうしなくては動機と金とを一しよに擲《なげう》つたわけになるのだからね。」
「そこで我々は先づこれまで研究して得た重要な箇条をしつかり捕捉してゐる事とするのだね。即ち不思議な声と、それから非常な敏捷な体との二つだ。それからその外にはこれと云ふ動機が全然欠けてゐると云ふ事実をも忘れてはならない。そこで我々はあの殺された女達の創のことを考へて見よう。」
「一人の女は素手で絞め殺して、死骸を逆《さかさ》に煖炉の中にねぢ込んであつた。どうもこれは普通の殺し方ではないね。殊に死骸の隠し方が不思議だ。そんな風に死骸を煖炉の中にねぢ込むと云ふことは、どうも人間の所為としては受け取れない。如何に人の性を失つた極悪人のした事としても受け取れない。その上女の体を狭い所へねぢ込んで、それを引き出すのに数人の力を合せて、やつと引き出されるやうにしたには、不思議な力がなくてはならないのだね。」
「その外非常な力のある奴の為業《しわざ》だと
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