zの連鎖は一節毎に正確なのだ。僕は秘密を究竟のところまで追尋《つゐじん》して来てゐる。どうしても釘に曰くがなくてはならない。見たところでは釘の形は前の窓の釘と同じだ。併しどうしてもどこかが違つてゐなくてはならない。なぜと云ふに外観が同じだと云ふ位なことで、僕の正確な思想の連鎖は断たれないからだ。」
「そこで僕は釘に手を掛けた。すると釘は折れてゐて、頭に二分五厘許の柄が付いて、ぽろりと抜けて、己の指の間に残つた。柄のそれ以下の部分は錐の揉孔の中に嵌つてゐる。この釘の折れたのは余程久しい前でなくてはならぬ。なぜと云ふに折目が※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]《さ》びてゐるからだ。多分釘は槌で打ち込む時折れたのだらう。折れながら打ち込まれて、頭の痕を窓枠の下の方に印するまで這入つたのだらう。己は又その釘の頭を元の通りに錐の孔に嵌めて見た。しつくり嵌つて、折れた釘とは見えない。それから己は撥条《はじき》を押して窓の戸を二三寸押し上げて見た。窓の戸はすうつと上がる。釘の頭だけが付いて上がる。千を放すと窓の戸は下りてしまふ。釘の頭は依然としてゐる。」
「さうして見ると謎がこゝまでは解けたと
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