]ふものだ。下手人は寝台の置いてある側の窓から逃げたのだ。逃げた跡で窓はひとりでに締まつたのだらう。又窓の外の開戸は逃げた奴がはずみで締まるやうに撥ね返して置いたかも知れぬ。兎に角内の戸は撥条が利いて跡が旨く締まつてゐたのだ。その締まつてゐたのを警察は釘の為めだと思つて、それから先を研究しなかつたのだね。」
「そこで下手人は窓から出たには相違ないが、出てからどうして下りたかが疑問だ。己は家の外廻を廻つて見た時、そこに気を付けて見た。丁度あの窓から五尺五寸許の距離に避雷針から地面へ引いた針金を支へる棒が立つてゐる。併し外から這入るとすると、この棒を登つて往つて、窓に手を掛けることは出来ない。況んや窓から這入ることは出来る筈がない。ところがあの家の第四層の窓の外枠はこの土地でフエルラアドと云ふ構造になつてゐるのに、己は気が付いた。この種類の窓枠は、近頃殆ど造るものがない。リヨンやボルドオの古家でよく見る窓枠なのだ。この構造の窓では、外側の戸は普通の観音開の戸と違つて、寧ろ室の入口の戸に似てゐる。只その下の半分に横に桟が打つてあるか、又は透かしになつた格子が取り付けてある。どつちにしても手で
前へ 次へ
全64ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 林太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング