_だと答へたのである。
「君の云ふのは証言其ものであつて、その目立つのが何物だと云ふことにはなつてゐない。さうして見ると君にはその特別なところが分からないらしいが、たしかに特別なところがあるのだよ。君の云ふ通りどの証人も所謂《いはゆる》そつけない声に就いては異論がなかつた。ところが所謂鋭い声となると区々《まち/\》なことを云つてゐる。イタリア人だとか、イギリス人だとか、スパニア人だとか、フランス人だとか云ふが、要するにその申立をした人が自国の人でなくて、外国の人だと思つたのだ。仮令《たとへ》ばフランス人の云ふにはあれは、多分スパニア人であつただらう、若し自分にスパニア語が分かつたら、何を言つたか、一言や二言は分かつたに違ひないと云ふ。又フランス語を知らないので、通訳を以て申し立てたオランダ人は、その鋭い声をフランス人だらうと云ふ。ドイツ語の分からないイギリス人はドイツ語だらうと云ふ。イギリス語の分からないスパニア人は、発音から推測してイギリス人だらうと云ふ。ロシア人の談話を聞いたことのないイタリア人はロシア語だらうと云ふ。イタリア語の分からない、今一人のフランス人はイタリア語だらうと云
前へ 次へ
全64ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 林太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング