モ。これも発音から推測したのだ。さうして見ると所謂鋭い声は余程異常な、不思議な声だつたに相違ない。詰まりヨオロツパ中のどの国の人も自国ではそんな声を聞いた事がないのだ。そこで君はその声の主をアジア人かアフリカ人かであつたかも知れないと云ふだらう。まづさう云ふ人種はパリイには余り多く見掛けない。それは兎も角も僕は君に証人共の申立の中で、三人の言つた事に注意して貰ひたい。一人はその声が叫ぶやうであつて鋭いと云ふのも当らないかも知れないと云つてゐた。跡の二人は忙《せは》しく不整調に饒舌《しやべ》つたと云つてゐる。どの証人も言語や言語らしい音調を聞き分けたものがない。これだけの説明をしたところで、君はその中からどれだけの判断を下すか知らないが、僕は証人共の説明した声の性質から、この問題の研究に一定の方針を立てるだけの根拠を見出したと断言することを憚らない。僕は僕の推理が唯一の正しいものだと思ふ。そしてその推理から或る嫌疑が出て来るのだ。僕はその嫌疑に本づいて、あの部屋を見るにも特別な点に注意したのだ。」
「まあ、お互に今あの部屋に這入つたと想像して見給へ。そこで何を捜したら好いだらう。どうして
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